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私はスイスで個展をするたびに必ず訪れる美術館がある。戦争や災害などで愛する人を失い辛い経験に打ちのめされた人々が心からの叫びを、絵や彫刻で表現することによって、失われた精神のバランスを再構築する。そのために制作された作品が収蔵されているのがアール・ブリュット美術館である。

アール・ブリュット美術館はフランスの画家ジャン・デュビュッフェが蒐集しコレクションした作品を中心に1976年スイス・ローザンヌに開館した。館内は全体に黒を基調とした薄暗い空間である。明を落としているのは作品保護の為だと思われるが、アール・ブリュット作品の性格を強調する為の環境作りでもあると思う。1階、2階と進につれて作品の激しさは増す。キャプションには病名と作家の来歴が記されている。

デビュッフェは早くからシュルレアリズムのアンドレ・ブルトンらとアール・ブリュット協会を設立するなどして研究をしていた。またドイツ人の精神科医ハンス・ブリンツホルンの著書「精神病者の芸術性」を読み精神病患者の絵画作品には際立って芸術性の高いものもあることに感動を覚えたことからコレクションは始まった。

名のある他の美術館とは明らかに異質であり、世界に一つしかないユニークな小さな美術館である。芸術の本来の在り方と人間について深く考えさせられる美術館である。

ローザンヌ駅からバスで10分ぐらいの所だが、スイス的で落ち着いた静けさの残る旧市街。入りくんだ坂道をぶらぶらと歩きながら行くのもいいものだ。
館内で日本の女子学生が熱心に見いっていたことがあった。臨床心理学専攻で修士論文資料の為だと言い、親から旅費を都合してもらったと微笑む。いいですねーと2,3言葉を交わした。私が英語で「アウトサイダーアート」と訳されるのには違和感を覚えるのだがと伝えると、その学生のゼミ担当の先生も同じようなことを言っていたと話してくれた。
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2013.03.24 / Top↑