四月の中旬に画家の小林英樹さんからメールが届いた。今、書いている小説が脱稿したらお茶をしようと。夏の終わりに小説「フェルメールの仮面」が発刊された。そして先日市内のホテルで出版記念パーティーがあった。

小林さんはゴッホの研究書や色彩浴というエッセイなど、もうすでに何冊かの本を書いている。けれども小説はこの齢になって初めてだと照れる。絵描きが小説を書くのに遭遇するのは、池田満寿夫さん以来だ。池田さんは「エーゲ海に捧げる」で第77回芥川賞を受賞した。

当時、銀座の本屋の前で受賞記念の版画が売り出された。Yに抱かれるマスオのようなハガキ大の銅版画だ。作品の前を通りすがりのOLやサラリーマンたちが池田さんは絵も描くのだと呟いていたという。その時の作品は今も私の書斎に掛っている。池田さんは詩人で作家の富岡多恵子さんとの生活で文才を育んだろうと思う。

「フェルメールの仮面」の主人公、折原祐一郎は芸大受験に失敗しパリの私塾で学んだ後、小樽の絵画塾で講師をする。模写と贋作。フェルメールの贋作をめぐるミステリー小説である。末尾に学術論文の様に参考文献がずらりと記されている。模写の専門的な描写は興味深い。祐一郎と関わる大学生の繭と高校の美術教師をしている柚子の二人の女性。フェルメールの贋作疑惑に切り込み、緊迫して一気に読ませる。

この物語の流れのどこかに青春時代、芸術に夢見、憧れを抱きながら美大の予備校に通った日々。そして、その後の人生を少なからずダブらせるものを感じる。小林さんはどこか画学生の雰囲気をいまだ持ち続けているような爽やかな懐かしさを私は感じる。
小林英樹さんは東京藝術大学油画専攻を卒業後、大阪の予備校の講師をされ、その後北海道学園大学教授を経て現在は愛知県立芸術大学油画専攻教授である。2000年「ゴッホの遺言」で日本推理作家協会賞受賞。贋作などの研究にみられる真実を追求するヒューマンな人柄だ。権力に諂う腰ぬけ教員が蔓延する時代に真実を語る先生がいたら教授会もやりにくいだろうと想像する。

尚、「フェルメールの仮面」は角川書店から発刊されています。1900円。
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2012.11.26 / Top↑
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