かって、私は週一回、本務が休みの日に松坂屋が経営していたフィニシングスクールで芸術の講座をもっていた。そのスクールは数年前に百年の歴史に幕をおろした。講師陣は一家言ある人々ばかりだった。日本最初の女性アナウンサーの稲陰千代子氏やフランス帰りの若きパテシエの杉野英実氏。彼は後にNHK番組プロフェッショナルにも登場し、現在東京・京橋でHIDEMI SUGINOのオーナだ。そしてヨーロッパ帰りの若きシェフがいた。爽やかでハンサムな青年だった。パリやチューリッヒ。ジュネーブ。ジャン・コクトー、サルトル、ボードレールとやたら私の気をそそる言葉が会話に出てきた。やがて彼は「パイの美」というフランス料理店をオープンした。

半年ほど前に久しぶりに店を訪ねた折りに「30周年記念にショーウインドウに絵を描いてほしいと」彼はいった。その後、私はたびたび店を訪れ構想を密かに練った。11月下旬から制作をはじめ、12月1日に作品は仕上がった。

タイトルは「春のロンド」と名付けた。モーッアルトのように心地の良い穏やかなハーモニーの作品。造形的にはデベルティメントでもよかったのだが、気分的には断然、春のロンドだった。

屋外での制作にオーナーは炭火鉢を用意してくれ、暖をとりながらの制作だった。キャンバスという日頃使いなれた支持体ではなくガラスというスペースは私を自由にさせ、順調に制作は進んだ。

そろそろ筆を置こうと思い、画面から離れ道路わきに立ち作品を眺めていた時、一台の赤いプジョーがショーウインドウの前の駐車場に止った。車から降りた婦人は描かれた絵をじっと見つめ、素敵ですねと声をかけてくれた。
フランス料理店「パイの美」は地下鉄杁中駅より10分ほど山手に歩いたところで、聖霊病院の裏通りの閑静な住宅街にある。もし近くを通られたら観てください。(TEL052-763-2091)
オーナ・シェフの落合良平さんはサッカー狂でグランパスのストイコビッチ監督などサッカー関係者や、音楽家、文学者など多彩な才能が集う、かってのパリのサロンのような雰囲気がある。
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2012.12.02 / Top↑
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